ヒョウモンダコ(Blue-lined octopus)のオスは、交尾前に強い神経毒(テトロドトキシン)をメスの心臓に注入し動けないようにして、交尾後にメスに食べられないようにしています。オーストラリア研究チームの観察でそんな生態が明らかになったそうです。メスは交尾後のオスを食べることで、産卵や孵化(ふか)に必要なエネルギーを蓄えます。体長は12~20cmと小さく、性質も比較的温厚で寿命はおよそ2~3年です。
- メスに毒を盛るオスのタコ、事後に食べられないよう安全に交尾(3/14 CNN)
- Blue-lined octopus Hapalochlaena fasciata males envenomate females to facilitate copulation(3/10 Current Biology)

ヒョウモンダコ(豹紋蛸)は、マダコ亜目マダコ科ヒョウモンダコ属(Hapalochlaena)に属する4種類のタコの総称です。一般に日本の小笠原諸島、南西諸島以南の太平洋からオーストラリアにかけての西太平洋熱帯域・亜熱帯域に分布し、浅い海の岩礁、サンゴ礁、砂礫底に生息します。海水温の上昇により分布北限が北上を続け、日本海側や浜名湖での捕獲や目撃も報告されています。
フグ毒としても知られる強力な神経毒素テトロドトキシンを保有する危険生物として知られています。唾液だけでなく、筋肉や体表にも含まれていることが判明し、食したり素手で触れないよう注意喚起を行っています。
研究論文の執筆者で、クイーンズランド大学のチョン(Dr Wen-Sung Chung)博士は、ヒョウモンダコが交尾する様子を観察、オスは背後からメスに近づき、大動脈にテトロドトキシンを仕込める部位に咬みつきます。
神経毒を仕込まれたメスは1時間ほど動けなくなって呼吸が止まり、その間にオスが安全に交尾することができます。獲物を捕ったり身を守ったりするためではなく、交尾の際に神経毒を使っていることが証明されたのは今回が初めてだということです。
- Cephanews(Facebook)

メスは生涯で秋の終わりごろに一度だけ約50個の卵を産みます。産み付けられた卵はメスの腕の下で約6か月間温められます。この間、メスは何も食べません。卵が孵化するとメスは死に、新しい子孫は翌年までに成熟して交尾できるようになるそうです。
テトロドトキシンは重度の全身麻痺を引き起こします。被害者は、周囲の状況を完全に認識しているものの、動くことができなくなります。応急処置としては、刺されてから数分以内に麻痺により呼吸筋が麻痺したら、傷口を圧迫して人工呼吸を行います。毒は主に麻痺によって死に至るため、著しいチアノーゼや低血圧が現れる前に人工呼吸を開始して維持すれば、被害者は助かることが多いそうです。
医療援助が到着するまで呼吸補助を行うことで、被害者の生存率が向上します。病院での治療では、神経毒素が体から除去されるまで患者に人工呼吸器を装着します。最初の24時間を生き延びた被害者は通常完全に回復するそうです。