世界初の海上浮遊式ホテル(海金剛ホテル)は、いま北朝鮮の日本海側に位置する金剛山で係留されています。かつてはオーストラリアのサンゴ礁「グレートバリアリーフ」の真上に浮かぶ五つ星の高級リゾートでした。1988年に開業、建設には推計4,500万ドル(いまの価値で約114億円)を要しています。
- 北朝鮮で朽ちゆく世界初の「海上浮遊式ホテル」(11/27 CNN)
海上浮遊式ホテルは、オーストラリア人のダグ・タルカ(Doug Tarca)氏とその息子のピーターの発案によるものでした。建物は7階建て、200室以上の部屋とナイトクラブ、レストラン、ヘリパッド、テニスコートなどを有しています。当初は「新しいことずくめの趣向」や「サンゴ礁のすばらしい眺め」が話題を呼んでいます。
しかし、ホテルまでの移動手段が2時間の高速船か、高額のヘリコプター。いずれでも荒天時には使用できないため、宿泊客がホテルに閉じ込められることになります。運営費用の高騰もあり、経営は営業開始後すぐに困難な状況になりました。
1989年に観光客誘致を目指していたベトナム・ホーチミン市の企業に売却。「サイゴンホテル」と改称され、10年近くサイゴン川に係留されています。大成功でしたが、1998年に資金繰りに行き詰まり廃業する結果となります。
解体を免れたホテルを、北朝鮮が韓国との国境に位置する景勝地「金剛山」への観光客誘致を目的に購入します。当時は「韓国と北朝鮮は交流の架け橋をつくろう」と協議を進めていました。新名称は「海金剛ホテル」として2000年にオープン、運営主体は韓国企業の現代峨山。この時期に金剛山地区は200万人を超える観光客を集めました。
2008年、北朝鮮兵士が軍事地帯に入った韓国人女性(53)を射殺する金剛山観光客射殺事件が発生。その結果、現代峨山はすべてのツアーを停止、海金剛ホテルも他の施設と同様に営業が止まってしまいます。
2019年に金正恩総書記が金剛山観光地区を訪れ、海金剛ホテルを含む多くの施設をみすぼらしいと批判します。北朝鮮文化により適合した様式に再設計する計画の一環として、多くの施設の解体を命じています。
しかし、新型コロナウイルスの世界的大流行が発生し、すべての計画は保留となっています。全面解体の計画が近日中に実施されるのか、そもそも実施されるのか否かも分からない状況になっています。
- Australia’s world-first floating hotel in dire straits as Kim Jong-un seeks renovations(10/24 2019 abc.net.au)