10月8日、スウェーデン王立科学アカデミーは、2025年のノーベル化学賞を京都大高等研究院の北川進特別教授(74歳)、豪メルボルン大のリチャード・ロブソン(Richard Robson)教授(88歳)、米カリフォルニア大バークリー校のオマー・ヤギー教授(60歳)の3氏に授与すると発表しました。狙った物質を内部にとじ込められる金属有機構造体(MOF)の研究が、脱炭素や有害物の除去など幅広い産業の発展に寄与することが評価されました。
- Nobel Prize in Chemistry 2025(The Nobel Foundation)
- They have created new rooms for chemistry(The Nobel Foundation)

- 北川 進(Susumu Kitagawa)、1951年京都生まれ。1979年京都大学にて博士号取得。京都大学教授。
- リチャード・ロブソン(Richard Robson)、1937年、英国グラスバーン生まれ。1962年、英国オックスフォード大学で博士号取得。オーストラリア、メルボルン大学教授。
- オマール・M・ヤギ(Omar M. Yaghi)、1965年ヨルダン・アンマン生まれ。1990年イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校(米国)にて博士号取得。カリフォルニア大学バークレー校(米国)教授。
金属有機構造体(MOF)は気体などの分離、回収、貯蔵を効率化できる技術として世界で研究が加速し、産業応用が広がっています。微細な穴が無数に開いていて1グラムあたりの表面積はサッカーコートに匹敵します。狙った物質を大量にとじ込められます。
果物の鮮度維持や半導体製造向けで実用化していますが、今後、期待されるのが脱炭素分野での応用です。MOFは製造が簡単なうえ、目的の物質が内部の微細な穴に入り込むように設計できるため、低コストで効率的に分離・回収が可能になるとされます。

北川氏は1992年に密度が高い結晶材料を作ろうとし、逆に無限の穴が開いた不思議な構造をつくることに成功しました。同氏はこの研究を「ターニングポイント」と語ります。97年には水分を除去するとガスを貯蔵できる金属有機構造体を発表しました。各国で研究が盛んになり、脱炭素への応用に道を開いています。
- PCP/MOF の世界へ(京都大学アイセムス)

共同受賞となったロブソン氏は無数に穴が開いた構造を89年に発表しました。イオンを交換できるほか、化学反応の触媒として活用する可能性を見いだしました。ヤギー氏は99年、300度に加熱しても壊れにくく安定した構造体に改良し、産業応用への可能性を広げた。夜の砂漠で空気にわずかに混ざる水蒸気を捉えて、朝に太陽光を当てて温めると飲料水を回収できることを示しました。
スウェーデン王立科学アカデミーは「受賞者たちの画期的な発見に続いて、化学者たちは何万種類もの異なる金属有機構造体を開発しました。人類が抱える最大の課題の解決に貢献する可能性がある」と讃えました。
京都発の「PCP/MOF」を解説する解りやすい動画を学生が作成しています。(2024/03/18 同志社大学サイエンスコミュニケーター養成副専攻)