南極東部で最大のトッテン氷河(Totten Glacier)が、氷床下部のほうから急速に融解しており、すべて解けると海面が約3~6m上昇する可能性が指摘されていました。研究者たちは何十年も前から、温暖化とともに地球の極氷の量が減少すると予想してきましたが、近年の衛星データやモデル、現地調査などにより、その減少がどの予想よりも速く進んでいることが明らかになりました。
<追記:8/11, 2024 暖かい海水のルートを解明>
- トッテン氷河(Google検索) 南極観測など
- 東南極最大級の氷河へ向かう暖かい海水のルートを解明
〜トッテン氷河を底から融かす海からの熱供給〜(8/22, 2023 国立極地研究所)
さらに、南極で氷の減少が加速している原因が、気候変動のなかでもあまり注目されていなかった「風」にあるとする証拠が次々に見つかっています。研究チームは海洋風の記録と、近くに浮かせたセンサーから得られた水温および塩分のストリーミングデータを衛星画像と比較することにより、トッテン氷河地点のサーモクラインを長期にわたって追跡。その結果、西からの風が強いときは、温度の高い水が勢いよく氷河に流れ込むことが解りました。風が東から吹くと、サーモクラインが再び沈み込み、融解は止まったそうです。
テキサス大学に在籍する科学研究員で、今回の研究のリーダーを務めたチャド・グリーン(Chad A. Greene)氏は「地球温暖化による海面上昇が空気を直接温めて上から氷河を融かすだけでなく、風によって海の各所で熱が移動するだけで氷河が下から解けることもあるというのは、実に興味深いものです」さらに、「南極大陸東部の沿岸に沿って吹きつける西風が、今後100年にわたってかなり強くなると予想される」と述べています。
「風」と海面上昇の研究はこれからですが、すでに海水はトッテン氷河の棚氷の端から、その岩盤を約125kmも内陸に進んだ地点まで等高線沿いに谷を刻んでおり、その深さは海面下3km以上に及んでいます。(動画を参照)
- Australian Antarctic Division(Website)
色が変化しているところは、風の影響を受けて温かい海水の湧昇(Upwelling)が起きているゾーン。数ヶ月のタイムラグ後にトッテン氷河(黄色の点)の融解が増えます(2000年から2017年)
- 南極の巨大氷河が急速に解けている理由は、気温上昇だけではない──その原因は「西風」にあった(12/30 Wired.jp)
- Wind causes Totten Ice Shelf melt and acceleration(Science Advances 01 Nov 2017)
プリンストン大学の気候科学者ザカリー・ラブ(Dr Zachary Labe)博士は、北極では長期的な海氷の減少傾向があったが、南極では状況が異なり、これまで長期的な減少傾向は観察されていなかったと指摘します。しかし、2016年頃から南極の海氷の量に違いがあることが観察され始めました。特に低調な年が数年続きました。したがって、大きな疑問は、2016年以降で何が変わったのか? そして、「ついに人為的な温暖化の影響が南極でも明確に現れ始めているのかということ」と語っています。