米国では、税金が公立大学の学術研究に充てられています。では、なぜその研究成果を高額な営利ジャーナルに支払う必要があるのでしょうか? エリカ・ストーン(Erica Stone)博士は、一般市民と研究者の間に新たなオープンアクセスの関係を築くことを提唱し、一般市民が十分な知識と情報を得るため、研究者はよりアクセスしやすいメディアで論文を発表すべきだと主張しています。
- TED Speaker: Erica Stone(Writer, teacher, community organizer)
- 公的予算での研究に学術論文の即時無料公開を義務づけへ…政府、成果を国民に還元(2/16, 2024 読売新聞)

研究者(学者)が一般向けメディアと関わらないのは、大学という組織の仕組みを理解する必要があります。まず研究者は自身の専門分野で研究成果を発表します。彼らは研究資金を得るために公的および国民の助成金に応募し、研究が終わった後にその成果について論文を書きます。そして、その論文を関連する学術誌に提出します。
その後、ピア・レビュー(査読)と呼ばれるプロセスを経ます。正確さと信頼性のために他の専門家がチェックします。通過すると営利企業は、その情報を学術誌や雑誌、データベース、教育大学や公共図書館に再販します。
「研究・調査」「論文作成」「ピアレビュー」「発表」これの繰り返しです。友人と私はこれを「怪物に餌を与え続けている」と呼んでいます。いずれ問題になる予想ができるはずです。

最初の問題は、ほとんどの学術研究が公的資金で賄われているのに、流通は民間に準拠していることです。公的資金で賄われた研究論文のほとんどを民間企業5社が流通させています。2014年にはこのうちの1社だけで15億ドルの利益を上げました。これは大きなビジネスです。
もう一つの問題は、ほとんどの研究者は定評ある定期購読型ジャーナル以外で発表しても、報酬があまり得られないということです。大学は研究者の論文発表回数に基づいた、終身在職制度や昇進制度を構築しているため、書籍やジャーナルの記事は研究者にとって通貨のようなものです。研究者は一般メディアで出版しても報われません。
税金が研究にどう使われるべきかを社会に示すことで、大学の存在意義を新たに描き直すことができます。一般市民と研究者の間に健全な関係が築かれていれば、研究への一般市民の参加ができます。研究が有料の壁や複雑な制度の奥で進められるのではなく、私たちの目の前で展開されていくほうが早いのでは?
実際、大衆文化と積極的に関わりなが社会の知識に寄与する研究者は、パブリック・インテレクチュアル(Public Intellectual)との呼び名があります。私は地域社会で活動し、市民と対話する包括的な民主的な研究を信じています。学術文化において、市民を単なる聴衆としてではなく、構成員、参加者、場合によっては専門家として位置付けるような研究に携わりたいと考えています。
- 公的資金による学術研究の成果を自由に見られないのはなぜか? | エリカ・ストーン(TED)
日本政府の統合イノベーション戦略推進会議は、国などの公的予算で行う研究については、成果をまとめた学術論文を無料で即時公開するよう義務づける方針を決めています。(統合イノベーション戦略2024における3つの基軸/pdf)