4月26日、世界の機関投資家が参加するアジア・コーポレートガバナンス協会(ACGA)は、日本企業に対して政策保有株式の縮減を加速し、原則として保有をゼロにすべきとの提言をまとめました。日本独自の持ち合い株式は「資本効率の改善の足かせになりかねない」、さらに「株主が経営陣の責任を厳しく問わない可能性がある」など、コーポレート・ガバナンスの観点からも懸念を示しています。直近、損害保険会社間の保険料カルテル問題を受け、金融庁が政策保有株式の保有がこの反競争的行為の一因となっているとして、各社に政策保有株式の縮減を加速するよう指示しています。
- ACGA Open Letter: Strategic Shareholdings in Corporate Japan(4/26 ACGA)
- 日本企業の政策保有株式に関する提言(公開書簡)(4/26 pdf/ACGA)
- アジアの投資家団体、日本企業に持ち合い株式ゼロを提唱-開示強化も(4/26 Bloomberg)
TOPIX500構成企業の有価証券報告書をもとに、2023年3月末時点で460社が政策保有株を保有しているとし、純資産額に対する比率が10%を超える企業は28%(140社)に上ると指摘しています。削減は進んでいるもののペースは緩やかで、「資本効率の改善の足かせになりかねない」としています。
政策保有株式の削減は、「純投資」目的への振り替えで行われるべきではないとの考えを強調。政策保有株式の規模が大きい企業では、社外取締役と監査役による特別委員会を設置し、削減目標を検討することを推奨しています。また、株主が政策保有株式を売却しても、事業取引上の不利益や損失が生じることはない点を企業側が宣言することもACGAでは期待しています。
議決権行使助言会社であるグラスルイス社(Glass, Lewis & Co., LLC)の調査によれば、TOPIX500構成企業の自己資本利益率(ROE)(直近5会計年度平均)は、純資産に対する政策保有株式の比率が上昇するに従って低下しており、これは、政策保有株式に投じられた資本が ROEの計算式における分母を膨らませ、企業全体の資本効率を低下させた結果であると分析しています。
また、東京証券取引所の分析によると、TOPIX500構成企業の同一の企業グループでは、米国のS&P500や欧州のSTOXX600の構成企業と比較して、ROEが8%を下回る企業の比率が不均衡に高いことが判明しています。この日本独自の株式持ち合い構造が、一般的にこうした構造を持たない欧米企業と比較して資本リターンが劣る一因となっている可能性があると考えられています。
透明性の高い株式保有構造を含む優れたコーポレートガバナンスは、株式市場における健全な競争環境の醸成を促し、日本の持続的な経済成長を実現するために不可欠です。「貯蓄から投資へ」を推進し、名実ともにアジア圏の金融センターを日本とするためにも必須要件だと思います。
ACGAは主にアジアを中心に世界の資産運用会社や年金基金などが加盟し、運用資産規模は総額40兆ドル(約6,200兆円)を超すとしています。