クルド人によるシリアの北部から北東部にかけて広がる事実上の自治区である「ロジャヴァ(Rojava)」は、3つの隣接しない行政区画からなり、東からジャズィーラ(Jazira)、コバニ(Kobani)、アフリン(Afrin)です。ロジャヴァを主導するクルド民族主義組織の民主統一党(PYD)は、「アラブの春」がシリアに波及する以前から、シリア・アサド政権の退陣をめざす一方、弾圧から住民を守るとして、人民防衛部隊(YPG)や女性防衛部隊(YPJ)を養成してきました(参照:ロジャヴァ革命)
1月20日、隣国のトルコが突如国境を越えてシリアのアフリンに侵攻を開始。クルド人勢力の人民防衛部隊(YPG)を中核とするシリア民主軍(SDF)を攻撃する「オリーブの枝」作戦を開始しました。トルコ国内のクルディスタン労働者党:PKKは、トルコからの分離独立を要求しており、トルコ政府はこれを「テロリスト」として取り締まってきました。
トルコは PKKと結びついたYPGも「テロリスト」と位置づけています。トルコは以前からISだけでなくクルド人勢力も攻撃していましたが、IS対策に目途が立った今、次の脅威としてクルド人勢力の排除に乗り出したのです。
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シリア国内は、アサド政権+ロシア+イランの連合が国土の半分以上と人口の大半を支配しています。しかし、石油資源が豊富な東部デリゾール一体と主要な農業地帯はクルド系シリア民主軍+米国連合が握っています。そして、トルコ+スンニ派武装集団(過激な「聖戦派」を含む)の連合は主として北西部を支配します。NATO加盟国トルコのエルドアン大統領は、シリア北部のマンビジ(Manbiji)を攻撃する意向を表明。本当にやれば、確実に米国との利害の対立が起きます。国家を持たない世界最大の民族クルド人は米国の後ろ盾を必要としていますが、ロシアやアサド政権とも一定の関係を維持しています。ISが勢力を衰えさせた後も、第2次世界大戦以降最大の難民を生み出しているシリアで、和平が困難な状況が続きます。
- トルコがシリアへ侵攻し、クルドが切り捨てられる(2018.01.24 青山弘之 / Newsweek)
- シリアで「国家内国家」の樹立を目指すクルド、見捨てようとするアメリカ(2017.08.19 青山弘之 / Newsweek)
クルド人勢力の制御下(ロジャヴァ) シリア政府(アサド政権の制御下) ISの制御下 アル=ヌスラ戦線の制御下 トルコが支援する自由シリア軍(FSA)などの反体制派勢力 その他の反体制派勢力の制御下 *ロジャヴァ全体図(Syrian Civil War detailed map)
エルドアン氏は当初「短期間で終わる」と話していましたが、アフリンへの攻撃は悪天候やクルド人勢力の抵抗で大きな進展は見られず、戦線を拡大すれば混乱の長期化は避けられない情勢です。シリア人権監視団(ロンドン)によると、これまでにアフリンで市民38人が死亡。PYDとトルコ側の戦闘員111人が戦死しています。
- クルド女性戦闘員「遺体侮辱」映像の衝撃──「殉教者」がクルド人とシリアにもたらすもの(六辻彰二/Newsweek)
- 絶望のシリア和平は新たな戦いへと向かう(ジョナサン・スパイヤー/Newsweek)
- 安保理、シリア問題で緊急会合 トルコの越境作戦は非難見送り(1/22 日本経済新聞)