鳥類ミズナギドリ(水凪鳥、水薙鳥)目に属する海鳥の中には、ハリケーンや低気圧へ向かって飛ぶという類まれな生存戦略を採る小型(鳩ほど)の海鳥がいます。ハリケーンの進路をたどり、海洋上層の垂直混合の増加によって表層に運ばれた魚やイカを食べていることが解りました。繁殖期には餌を求めて数週間を大西洋上で過ごし、最大1万2,000キロ(地球1周が4万キロ)を飛行することもあります。
- 「嵐を追いかけて」1万2000キロ飛ぶ小さな海鳥、ミズナギドリ その驚きの習性(7/16 Forbes Japan)
- Groundbreaking Study Reveals Oceanic Seabirds Chase Tropical Cyclones(7/9, 2024 WHOI)

海鳥のデゼルタス・ミズナギドリ(Desertas petrel / Pterodroma deserta)は、北大西洋上にあるデゼルタス諸島ブージオ島(Bugio Island)だけに生息する、世界でもひときわ数の少ない海鳥の一種です。確認されている繁殖ペアが200組に満たず、絶滅危惧II類に指定されています。
ウッズホール海洋研究所(Woods Hole Oceanographic Institute: WHOI)による2024年の研究では、ハリケーンから逃げる傾向がある他の多くの海鳥種とは異なり、デゼルタス・ミズナギドリはハリケーンの進路をたどり、海洋の垂直混合の増加によって表層に運ばれた魚やイカを食べていることが解りました。鳩ほどの大きさの海鳥が「激しい海洋環境を利用する」、まさに適応力の驚異です。
「ミズナギドリ類は、通常水深180m以内に生息する小魚、イカ、甲殻類を捕食します。しかし、それほど深く潜ることができないため、獲物が水面近くに上がってくる夜まで待つ必要があります」「低気圧は海面温度を急落させ、海水が攪拌されることで、栄養豊富な深層の水が上昇します」そして、「通過後の余波で獲物が地表近くに集まって来ているハリケーンを追っているのです」と、WHOIの海洋物理学科学者、キャロライン・ウメンホファー(Caroline Ummenhofer)氏は述べています。

WHOIの物理海洋学名誉教授で本論文の共著者であるフィリップ・リチャードソン(Philip Richardson)氏は、「熱帯低気圧と海洋の相互作用における興味深い側面の一つは、非常に強い風と巨大な波によって海洋上層で激しい垂直混合が引き起こされることです」と述べています。

屈強なクライマーにしか近づけないブージオ島の険しい断崖は、天然の要塞として機能し、捕食者や人間の干渉からデゼルタス・ミズナギドリを守っています。しかし、その孤立した環境は、個体群のもろさを際立たせてもいます。この鳥たちは、たった一つの隔絶された場所に頼って生き延びなければならないのです。
デゼルタス・ミズナギドリの身体は、驚くような耐久性とデザインを備えています。流線形の体、先が細くなった長い翼、軽量の骨格は、海での生活に完璧に適応したつくりになっており、広大な外洋を比類のない効率で滑空できます。こうした適応が驚異的な長距離飛行を可能にしています。
ハリケーンや低気圧の進路をたどり、海洋の垂直混合の増加によって表層に運ばれた魚やイカを食べる採餌戦略。極端な繁殖環境と気象現象に直面した外洋性海鳥の適応能力と、生存戦略に関する貴重な知見を提供するものです。
- Oceanic seabirds chase tropical cyclones(7/22, 2024 Current Biology)
