8月31日の朝(現地時間)、「ロシアのスパイ」と疑われたシロイルカのバルジーミル(Hvaldimir)が、ノルウェーのスタヴァンゲル近郊リサビカ(Bay of Risavika)の海上に浮かんで死んでいるのが発見されました。バルジーミルは人懐っこい性格で、年齢はおそらく15歳から20歳の間でした。世界自然保護基金(WWF)によるとシロイルカの寿命は通常30~35歳だということです。死因については、サンドネスにある獣医学研究所(Veterinærinstituttet)が解剖して調査しています。
- Kjendishval døde brått – nå vil alle ha en bit av «Hvaldimir»(9/1 NRK)
- OneWhale(Website)
- Marine Mind(Website)
2019年4月にその姿が捉えられた際、体にロシア製のハーネスが装着されていました。ハーネスには、小型カメラを取り付けることが可能になっていて、スパイと疑われました。軍事利用を目的とした海洋哺乳類の飼育は冷戦下で始まったとされ、米国海軍では約70頭のイルカが訓練されています。専門家による調査の結果、バルジーミルは手のサインに反応するなど訓練された動物だと判明しました。
本来シロイルカは群れで生活し、鳴くことで仲間とコミュニケーションを図ります。また、知能の高さから社交的で、訓練しやすいとも言われます。バルジーミルの場合、訓練により自らエサを獲ることができなくなっていました。海洋生物の専門家らによって3ヵ月ほどで魚を捕まえることを覚え、小魚が集まるサーモンの養殖場に居着くようになっていました。
バルジーミルの安全を守るべく、保護団体「OneWhale」が設立され、保護活動と追跡をしていました。バルジーミルの人懐っこさは筋金入りでしたが、ボートのスクリューで傷を負うこともあります。OneWhaleは行動を見守り、野生に戻ってくれることが理想だと語っていました。
2022年にロシアのウラジミール・プーチン大統領との関連を避けるために、バルジーミルはハヴァルディ«Hvaldi»というあだ名も付けられています。OneWhaleは、バルジーミルを北に移動させるために長い間活動してきました。当初、彼らはクジラをスヴァールバル諸島に移送することを申請しましたが拒否されています。ノルウェー水産総局は、7月にフィンマルク(Finnmark)のヴァランゲルフィヨルド(Varangerfjorden)にクジラを移送することを承認しました。
しかし、セバスチャン・ストランド(Sebastian Strand)氏を含む数人の研究者はこの決定に批判的でした。70人以上の専門家がノルウェー水産総局に苦情を送り、この移動はバルジーミルの健康を害する恐れや、ロシアが近い環境は危険がおよぶリスクが高いと主張していました。
孤独だったバルジーミルは、寂しくて仲間や交尾相手を求めるような行動をしたこともあります。(スウェーデンまで南下しています)
数多くの人に愛されましたが、孤独でもあったバルジーミルの年齢は15歳と推測されます。世界自然保護基金(WWF)によると、シロイルカの寿命は通常30~35歳だということです。下記はオスロ警察で24年の経験を積み、武器の傷を専門とする独立したノルウェーの法医学専門家が、Hvaldimirの負傷を分析しています。彼の所見は明確で、間違いない:Hvaldimirは至近距離で少なくとも1発はHvaldmirの皮膚を燃やした「比較的高力な武器」で複数回撃たれたとしています。専門家は、傷について火薬の残留をテストするべきだと述べています。
ノルウェー放送協会(NRK)は、「バルジーミルよ!安らかに」とした特集記事を掲載しています。放送された動画や記事、読者が投稿した写真・動画などがあり、思い出も募集しています。
- Hval i fred, Hvaldimir!(9/1 NRK)
- Hvaldimir 関連記事(NRK サイト内検索)遺体や死因も含めて
バルジーミルの遺体については、野生動物の病死では病原菌の関係から火葬するのが通常としています。しかし、ベルゲン大学博物館のハネッケ・マイヤー(Hanneke J.M. Meijer)教授は、大学博物館には北欧最大の骸骨コレクション(15,000 体以上)があり、シロイルカもレッドリストに登録された非常に希少な種であると指摘、火葬に反対の立場です。保護団体(One Whale)も「バルジーミルの思い出の場所」がほしいとして、火葬であれば遺灰を求めています。獣医学研究所と協議しています。