2018年、タレクアという母シャチが子どもを産みましたが、その子どもは1時間以内に死んでしまいました。しかし、タレクアは子どもの傍から離れようとしませんでした。その後17日間、子どもの亡骸(なきがら)を1,600キロもの距離を自身の頭部で運びました。摂食や回游パターンが変わり、タレクアの行動は確かに異常でした。しかし、母親のタレクアは悲しかったのでしょうか? それともただ死に困惑していただけなのでしょうか? 人類学者で作家のバーバラ J・キング(Barbara J. King)氏が、人間以外の動物に悲しみはあるのかを探求します。TED-Edのアニメ版とYouTube版で内容が異なりますが、どちらもお勧めです。
- TED Speaker/TED Attendee: Barbara J. King(Biological anthropologist, writer)
- Stories by Barbara J. King(Scientific American)
この問題は難解です。1871年、チャールズ・ダーウィンは動物にも悲嘆など様々な感情を抱くと主張しました。しかし、人の感情を他の動物に投影することに慎重な科学者が多数います。
2003年に象の群れのリーダーである雌のエレノアが倒れました。すぐに群れの別のリーダーであるグレースがエレノアを近寄り起こそうとしましたが、エレノアはまた倒れてしまいました。エレノアの死後、マウイという雌象はエレノアに近寄り前足をエレノアに乗せて前後に揺らしました。1週間の間に他の5つの群れもエレノアの亡骸にやって来ました。別のケースでは、家族の遺骨を運んでいる象たちが目撃されています。顎骨や牙もありました。
人間以外の動物が、悲嘆といった感情を抱くのかという議論は感情論になる可能性があります。議論の結論が実社会に大きな影響を及ぼすからです。例えば、シャチを隔離して飼育すべきかどうかや、生まれたばかりの子牛を親から引き離すべきかという是非です。この課題について更にデータを収集するまで、動物を悲嘆感情があるものとして扱うべきでしょうか? それとも、悲しまないものとするか? どちらの説が動物により害をもたらすでしょうか?
- 動物は死に対する悲しみを感じるのか? – バーバラ J. キング(TED日本語/5分43 アニメ版)
Can other animals understand death? | Barbara J. King
下記のYouTube(14分42)版では、テーマに沿ってバーバラ J. キング氏の主張が動物たちとともに述べられ、人間と動物たちの関係や自然環境、そして人間の食文化についても語られます。最後にキング氏は「私は本当に動物たちの悲哀感情を信じています。動物に愛情があることを信じていますし、そういった感情が人間だけのものでないと認識すべき時だと思います。これを理解したとき、より優しく親切な世界になります。それは私たち自身も救うことになるでしょう。」 ありがとうございます(拍手)
- Grief and love in the animal kingdom – Barbara J. King(TEDEd)
動物界に見られる悲哀と愛情 | バーバラ・キング
もう3年も子どもが生まれなった弱ったシャチの群れにやっと生まれた娘が、30分ほど母親と泳いだだけで動かなくなってしまいました。死んだのです。自分を責めるように母シャチは子どもを離さない。いったいいつまで? 動画は子どもの死後4日め。死んだ子どもを押して泳ぐ母シャチのタレクア。
- 子供の亡骸を16日間も離さない母シャチの悲嘆「もう見ていられない」と研究者(8/10, 2018 Newsweek)
J35 carrying dead baby on the fourth day. She is also carrying it today, the fifth day 20180728.