トムソン・ロイターは、子会社の法律調査プラットフォーム「Westlaw」の著作物を、AI企業ロス・インテリジェンス(Ross Intelligence)が不正使用したとしてAI著作権訴訟を起こしていました。今回の判決は、AIシステムの訓練に著作権で保護された作品を使用することの合法性に関する(フェアユース適用を否定)先例となる可能性があります。ハリウッドのクリエイターたちがAI企業を相手に起こしている訴訟でも引用されることが予想されます。
- 対AI企業の著作権訴訟でトムソン・ロイター側が勝利。AI訓練目的での「フェアユース」認められず(2/13 Wired.jp)
- Every AI Copyright Lawsuit in the US, Visualized(12/19, 2024 Kate Knibbs / Wired)
訴訟の進行に合わせて更新される便利な視覚化を作成しています。
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判決では、ロス・インテリジェンスがフェアユースの適用を主張していた点についても否定されました。連邦裁判所判事のステファノス・ビバス判事は、同社がトムソン・ロイターのヘッドノートを利用して競争相手となる法的検索エンジンを開発しようとしたため、商業的利用でありフェアユースに該当しないと判断しました。
今回の判決の焦点となったのは、トムソン・ロイターの法律調査プラットフォーム「Westlaw」に含まれるヘッドノート(判決の要点を要約したもの)の著作権保護の有無です。ビバス判事は、「ヘッドノートは単なる判決の抜粋ではなく、法律家の編集判断によって創作されたものであり、彫刻家が大理石を削って作品を生み出すのと同じように、独自の著作物として保護される」と述べています。
知的財産専門の弁護士であるランディ・マッカーシー(Randy McCarthy)氏は、「この判決は、AI企業に対して著作権侵害を訴えるアーティストやコンテンツクリエイターにとって強力な武器となるだろう」と述べ、「単に著作物をAIの訓練データとして使用することがフェアユースに該当するとは言えない」と指摘しました。
- AI企業の著作権に関する訴訟、ハリウッドのクリエイターに朗報か(2/12 hollywoodreporter.jp)
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フェアユースとは、著作権者の許諾を得ずに著作物を利用しても、著作権侵害を免れることができる法理です。日本では公正利用や公正使用とも呼ばれます。
【フェアユースの要件】
・利用の目的と性質(商用か非営利の教育目的かなど)
・著作権のある著作物の性質
・著作権のある著作物全体との関連における使用された部分の量および実質性
・著作権のある著作物の潜在的市場または価値に対する利用の影響(複製物の使用が市場”潜在的な市場を含む”に悪影響を与える場合、フェアユースの成立を不利にします)
【フェアユースの例】
批評、コメント、ニュース報道、教育、学術研究、調査など。
【フェアユースの成立のポイント】
・事実に基づく作品のコンテンツを利用する方が、完全なフィクション作品を利用する場合に比べフェアユースであると認められる可能性が高くなります。
・利用が極めて困難な絶版などの理由があれば、それもフェアユース成立に有利に働きます。
日本の著作権法ではフェアユースの法理は採用されていません。
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生成AIブームにより、AIの著作物利用をめぐる法廷闘争が相次いで起こっています。多くの主要AIツールは書籍、映画、映像作品、Websiteなどといった著作物で訓練されているからです。現在、米国の裁判所では数十件の訴訟が進行中です。また中国、カナダ、英国などでも国際的な訴訟が起こされています。
- Every AI Copyright Lawsuit in the US, Visualized(12/19, 2024 Kate Knibbs / Wired)