私たちは、なぜ発電所から街まで電気を運ぶ電力系統(Electrical grid)に100年も前の技術を使っているのでしょうか? 材料科学者であるジェイソン・ホァン(Jason Huang)氏は、既存品より3倍の容量があり、さらに送電ロスを半減させる次世代先進導体の電線に架け替えることで、世界の送電線網を劇的に改善できると説明します。手頃なコストで増え続ける電力需要に対処し、気候変動に強い未来へ進むことができると語ります。
- TED Speaker: Jason Huang(Grid guru)

史上最大の発明の一つは送配電網です。それは発電所から電気を使う場所までつながっています。極端な天候下でも安定して安全に送電し続けています。いまの送配電線は、未だに私たちが消費する電力エネルギーの3分の2を処理する能力もないのです。
送配電網の本当の課題は、実のところ電線(Aluminum Conductors Steel Reinforced: ACSR)です。電気を運ぶ電線は、1908年に発明された時代遅れの技術に基づいています。それは容量が限られており効率も悪いのです。次世代の先進導体の電線は存在します。それは最先端の材料科学を活用して開発された最良の電線です。
- Conductor Evolution Part One: 1908 to Present(TS Conductor)
生活の中で100年以上も前のものを使う機会は多くありません。なぜ、私たちは時代遅れの電線を使い続けているのでしょうか? その理由は、私たちの公益事業会社が非常に保守的な体制を持つ、規制された独占企業だからです。

100年前の技術である鋼心アルミより線(ACSR)は、未だに電力網の主流となっています。芯には構造を支える鋼線が使われています。そこに電気伝導率の高いアルミニウム層を重ねています。100年前の鋼線は強度が不十分で、強度を上げるために硬質アルミニウムを使いました。問題は硬質アルミニウムが、高温に弱くこれが容量を制限しています。
下記(AECC)は私が共同設立者を務める TS Conductor社の電線です。それは既存品より3倍の容量があり、さらに送電ロスを半減させます。うれしいことにグリーン割引が適用されるので、電力会社とその顧客のコストを初日から節約できます。
開発した電線は、2016年までに全ての課題を根本から解決しています。安全性、信頼性、製品寿命だけでなく、設置もメンテナンスも考えて一から設計を行ないました。あらかじめテンションをかけたカーボン芯を、継ぎ目のない分厚いアルミニウムで覆い効果的に保護しました。素材は全て伝導性に優れています。

既存の送配電網の構造体(鉄塔など)を活用しながら送電能力を3倍に高められるのです。同時に送電ロスを半減させつつ、熱による「たるみ」を本質的になくします。先進導体の電線は、従来品に比べて少し高価ですが結果的には割安です。(講演では実例を紹介しています。)
このように送配電網を刷新したら、どうなるかを想像してみましょう。私たちは、あらゆるものを電化し増え続ける電力需要を満たせます。電気自動車やヒートポンプ(クーラーなど)、工業プロセスやデータセンター。これらを送配電網の信頼性や容量不足の心配もなく運用できるのです。さらに朗報です。
送電ロスを削減するだけで、温室効果ガスの排出量を劇的に削減できます。送電ロスを補うために、発電する必要がなくなるため、毎年5億トンもの温室効果ガスを抑えられます。世界の電力網に太陽光・風力発電をもっと繋げられたら、さらに数ギガトンの温室効果ガスを削減できる機会も訪れます。
インターネットは数10年前まで電話回線でしたが、いまは5Gです。電力網でも同じことができます。高性能な電線技術を活用し、今すぐ始めればよいのです。人類のために、気候変動に対して一緒に変化を起こしましょう。ありがとうございました。(拍手)