欧州委員会(EC)は、研究者や科学者を欧州連合(EU)に誘致する新たな取り組みを開始しました。特に米国からの人材獲得を目指すとしています。多額の予算を投じて展開される「Choose Europe for Science」は、トランプ政権が進める科学研究費削減のあおりを受けて、やむなく新天地を探すことになった研究者たちに、別の選択肢を提供する目的で考案されたプログラムです。
- Choose Europe for Science(ChooseEurope.eu)
- 科学者は欧州へ? 米の予算削減でEUが人材獲得に乗り出す(5/17 Wired.jp)

欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は5月5日付の声明のなかで、「今日の世界では、科学の役割に疑問符が投げかけられています」と警告。「考え違いも甚だしい、と言わざるを得ません。科学こそが欧州の未来の鍵を握っていると私は確信しています。科学の力を借りずに、人々の健康から最新技術、気候や海洋の問題まで、今日の世界を取り巻く諸課題に取り組むことなどできません」と述べています。
フランス政府の発案によるこの計画には、特に優れた研究者を対象に経済的な安定を保証する長期的な“スーパー助成制度”の創設も含まれており、助成期間は7年間とされています。また、2025年中にEUへの移住を決めた研究者への助成金を2倍に増額する計画もあるということです。
EUの博士課程およびポスドク研究を支援するマリー・スクウォドフスカ・キュリー・アクション(Marie Skłodowska-Curie Actions: MSCA)は、優れた研究とイノベーションに資金を提供し、国境を越えた研究者の移動や、様々な研究分野への参加を通じて、キャリアのあらゆる段階にある研究者に新たな知識とスキルを身につけさせます。MSCAは、優れた研究者の長期的なキャリアに投資することで、欧州の研究・イノベーション能力の構築を支援します。

ドナルド・トランプ米大統領が提案した2026年度予算案は科学機関への前例のない削減を盛り込んでおり、もし施行されれば米国の科学に壊滅的な打撃を与えるだろうと政策専門家らは指摘しています。
この予算案は国防費以外の支出を23%削減するもので、米国立科学財団(NSF)への資金提供は56%削減、米国立衛生研究所(NIH)の予算は約40%削減されます。環境保護庁(EPA)は55%の削減として、気候変動対策プログラムの排除を含め、主要な研究部門を解体する計画を発表しています。疾病管理予防センター(CDC)は予算を約3分の1削減し、慢性疾患の予防を目的としたプログラムなどを廃止することを目指すとしました。エネルギー省(DoE)の2026年度予算案は、2025年度と比べて約50億ドル減少しています。
米航空宇宙局(NASA)では2025年の水準から24.3%減少し、天体物理学、惑星科学、地球科学研究を含むNASAの科学部門は、ほぼ半分に削減されます。米国地質調査所(USGS)は、米国の自然災害やその他の地球科学分野の研究を監督していますが、調査、研究プログラムへの資金が昨年比で5億6,400万ドル減少します。アメリカ海洋大気庁(NOAA)の026年度予算は少なくとも25%、つまり15億ドル削減されます。
大統領の予算案では「気候変動を中心とする様々な研究、データ、助成金プログラム」が終了するとされていますが、詳細は明らかにされていません。科学政策研究者たちは、この予算は次世代の科学者にとって壊滅的な打撃となる可能性があると指摘します。「若い科学者たちへのメッセージは、この国は君たちの住む場所ではないということです」と、ニューヨーク市立大学で科学政策を追跡する物理学者マイケル・ルベル(Michael Lubell)氏は言います。「もし私がキャリアをスタートさせるなら、すぐにここを去るでしょう」と述べています。