人工衛星にAIを搭載して画像解析とデータ圧縮を宇宙で実行させることで、従来より500倍も速く森林火災を検出できる技術をオーストラリアの科学者たちが開発しました。気候変動により頻発している山火事を早期に発見することで、被害を最小限に抑えることが目的です。CubeSat(キューブサット)のKanyini(カニーニ)」の限られた処理能力と消費電力、わずかなデータストレージの制約内で動作する軽量なAIモデルを開発しました。
- Fighting fires from space in record time: how AI could prevent a repeat of Australia’s devastating wildfires(6/6 Smart Sat CRC)
- AIを搭載した超小型衛星が、宇宙から山火事を見つけ出す(6/21 Wired.jp)
- New technique revolutionises bushfire detection from space(6/5 Space Connect)
人工衛星が捉えた大量のハイパースペクトル画像(光を波長ごとに分光して撮影した画像データ)を地球へ送信する前に衛星軌道上で解析できれば、貴重な時間とエネルギーを大幅に節約できます。そこでオーストラリアの科学者たちは、CubeSat(キューブサット)と呼ばれる超小型の人工衛星に人工知能(AI)を搭載することで、衛星上で画像処理とデータ圧縮を実行することに成功しました。
- ハイパースペクトルセンサとは~仕組み、用途、代表的なセンサ~日本の技術力が集結したHISUIの凄さに迫る!(10/12, 2022 宙畑)
ハイパースペクトル画像を使用して火災煙の早期検知を行うための、エネルギー効率の高いオンボード・AIモデルを実装することを目指した、打ち上げ前段階における研究を紹介しています。(下記に掲載)
オンボードAIを活用した新たなAIモデルは、このハイパースペクトル画像をダウンリンク(衛星から地球への送信)する際のデータ量を元サイズの16%まで減らすことで、エネルギー消費を69%削減することに成功しました。これにより、従来の地上側での処理の500倍の速さで火災発生時の煙を検出できるようになったということです。
また、実際にオーストラリアで発生した森林火災のシミュレーション画像を用いて、「煙」と「雲」を区別できるAIモデルをトレーニングすることでも、地上にダウンリンクして解析するデータを最小限に抑えています。
南オーストラリア大学(UniSA)の地理空間学者ステファン・ピーターズ博士(Dr Stefan Peters)は、「従来の地球観測衛星には、リアルタイムに地球を写した複雑な画像を軌道上で分析する処理能力はありませんでした」と説明します。
ステファン・ピーターズ博士は、「この研究により、オンボードAIを用いた画像処理の恩恵が十分に証明されました。森林火災だけに限らず、他の自然災害に対する早期警戒システムとしても価値を見出だせるのではないでしょうか」と述べています。
研究チームは、Kanyini(カニーニ)のミッションが始動する2025年を目処に、衛星軌道上でオンボードAIを使った火災検出の実証を計画しています。また将来的には、この技術の商業化に加えて、地球規模で衛星を分散配置するコンステレーションに導入することで、1時間以内に火災を検出できるシステムの構築を目指すとしています。