10月9日、スウェーデン王立科学アカデミーは2024年のノーベル化学賞を、タンパク質の構造をコンピュータで予測・設計する技術を開発した米ワシントン大学のデービッド・ベーカー教授と、Googleの AI開発部門、Google DeepMindのデミス・ハサビスCEOとジョン・ジャンパー（John Jumper）氏の3氏に授与すると発表しました。科学アカデミーは授賞理由として、ベイカー氏による「計算によるタンパク質の設計」と、ハサビス氏とジャンパー氏の AIによる「タンパク質構造の高精度の予測」を挙げました。
- The Nobel Prize（Website）
- The Nobel Prize in Chemistry 2024（Press release / Nobel Prize）
科学者たちは長い間、生命の化学ツールであるタンパク質を完全に理解し、習得することを夢見てきました。この夢は今や手の届くところにあります。デビッド・ベイカー氏は生命の構成要素を習得し、まったく新しいタンパク質を設計・作成する方法を導き出しました。デミス・ハサビス氏とジョン・ジャンパー氏はAI（人工知能）を利用して、ほぼすべての既知のタンパク質の構造を予測しました。これらの発見と技術開発の可能性は計り知れません。
タンパク質設計の分野は、多くの場合、研究者は既存のタンパク質を微調整し、有害物質を分解したり、化学製造業界でツールとして機能したりできるようにしました。しかし、天然タンパク質の範囲は限られています。そこで、ベイカー氏の研究グループ（Baker Lab）は、まったく新しい機能を持つタンパク質を得る可能性を高めるためにゼロから作り出そう（De novo設計）としました。2003年に自然界ではこれまでに見たことのない折りたたみ方をした完全なタンパク質設計に成功しました。
AlphaFold（アルファフォールド）は、タンパク質の構造予測を実行する GoogleのDeepMindによって開発された人工知能プログラムです。このプログラムは、タンパク質の折り畳み構造を原子の幅に合わせて予測する深層学習システムとして設計されています。最新版の「AlphaFold 3」は、2020年にリリースされたAlphaFold 2の基礎をベースに構築されています。AlphaFold 2はタンパク質の構造予測において根本的な進歩を遂げることに成功し、マラリアのワクチンやがんの治療、酵素の設計などの分野で数々の発見を手助けしてきました。
タンパク質が化学ツールとして持つ驚くべき汎用性は、生命の多様性に反映されています。これらの小さな分子機械の構造を今やこれほど簡単に視覚化できるというのは驚くべきことです。これにより、一部の病気がなぜ発症するのか、抗生物質耐性がどのように発生するのか、一部の微生物がなぜプラスチックを分解できるのかなど、生命の仕組みをより深く理解できるようになります。
新しい機能を備えたタンパク質を創り出す能力も同様に驚異的です。これにより、新しいナノマテリアル、標的医薬品、ワクチンのより迅速な開発、最小限のセンサー、より環境に優しい化学産業など、人類に最大の利益をもたらす応用例が数多く生まれます。
「基本的に競合相手と一緒に受賞したことについてどう思いますか？ RoseTTAFoldとAlphaFoldは互いに競い合っていました。この賞で団結したことについてどう思いますか？」という質問にベーカー氏は、「そうですね、DeepMindや Johnや Demisが競争相手だとは感じたことは一度もありません。・・・それは私にとってディープラーニングの力に対する一種の目覚めの呼びかけでした」と述べています。
ジョン・ジャンパー氏は発表が終わるまで寝て過ごそうと思っていましたが、うまくいかったそうです。70年の歴史があるノーベル化学賞の最年少受賞者（1985年生まれ）になりました。