ドクウツギやドクゼリと並んで日本三大有毒植物のトリカブトは、日本には約30種が自生しています。花の色は紫色のほか、白、黄色、ピンク色などです。塊根を乾燥させたものは漢方薬や毒として用いられ、烏頭(うず)または附子(生薬名は「ぶし」、毒に使うときは「ぶす」)と呼ばれます。アイヌが矢毒に使用したトリカブトは、エゾトリカブト(蝦夷鳥兜)とオクトリカブトの2種類です。
- アイヌとトリカブト(門崎允昭 / 北海道野生動物研究所)
- 「アイヌとトリカブト」門崎允昭(pdf / アイヌ民族文化財団)
古来、弓矢の矢毒として塗布するなどの方法で、狩猟や武器目的で北東アジア・シベリア文化圏を中心に利用されてきました。北アメリカのエスキモーもトリカブトの毒矢を使用したことが報告されています。アイヌでは、トリカブトとその根を「スルク(suruku)」と呼び、アイヌ語で「置くもの」を意味するアマッポ(仕掛け弓)にも使用しました。他にアマックウ(置く弓)、クワリ(弓を置く)の名称もあります。
矢毒の製法では、主原料となるトリカブトにテンナンショウの根、イケマの根、マツモムシ、メクラグモ、ハナヒリノキ、ニガキ、タバコ、さらには沢蟹やキイチゴなどを練りこんで毒性を高めています。これらの混ぜ物には実際の毒性生物もありますが、毒性を意図せず、呪術的な観点から加えられたものもあるようです。
スルク(suruku)は各人が一種類のみ作り出すのではなく、毒の強弱をそれぞれ分けて5、6種類ほどのものを完成させます。「やじり」に塗布する際は、まず緩効性で毒性が強いものを塗り、その上に即効性で毒性が弱いものを重ね、最後に松脂で固めます。この際に留意すべきは「獲物を得やすく、人間が安全に利用できるだけの毒性」を守ることです。毒性が弱ければ矢が命中しても獲物に逃げられてしまう。反対に毒性が強すぎれば獲物の全身に毒が回って食用にはならない。そのさじ加減を見極めて、毒を調合するそうです。
明治初期に北海道の開拓が本格化するにつれ、奥地に分け入った和人の猟師や開拓民がアマッポ(仕掛け弓)に掛かる事故が続発するようになります。事態を受けた開拓使は明治9年(1876年)、北海道全域でアマッポの使用を禁止するとともに、「貸出」の形でアイヌに銃を与えています。
- アイヌ自製品の研究―仕掛け弓・罠一(pdf / 宇田川 洋)
学術機関リポジトリデータベース(IRDB) 東京大学文学部考古学研究室
萱野茂氏の「アイヌの民具」では、アマッポではなく「クワリ」として紹介しています。クワリというのはク=弓、アリ=置く、つまり仕掛けておく弓のことです。(下記を参照)
- クワリ(ku-ari)/仕掛け弓(狩猟用具)(萱野茂/平取町立二風谷アイヌ文化博物館)
- ウポポイの学習や実演、体験プログラム一覧(Website)