作物生理学者のグントゥール V.スバラオ(Guntur V. Subbarao)氏と研究チームは、気候変動のモンスターと呼ばれる有害な「肥料食いバクテリア」の有害物生成を抑制する、抗生物質入りの小麦の系統(BNI強化コムギ)を開発しました。この BNI(生物的硝化抑制: Biological Nitrification Inhibition)強化技術は、高い生産性と農業からの環境負荷の軽減を両立させる農業システムの構築に貢献し、農地からの温室効果ガスの発生を抑制することが期待できます。
- G.V.スバラオ主任研究員の「TED Talks」アーカイブ動画が公開されました(11/15 JIRCAS)
- グントゥール V.スバラオ 主任研究員、TED2022にて講演(4/8 JIRCAS)
サブバラオさんは、現代の農業システムは病んでいると指摘します。「いま農地に適用されている窒素肥料のほぼ70%が漏れ出し、制御不能に窒素を漏らしています」と言います。「1960年代の緑の革命時の窒素肥料消費量は500万トン、現在の消費量は1億5,000万トンです。窒素肥料が30倍に増加した結果として世界の穀物生産量は4倍に増加しました」と語ります。
土壌の中に住んでいる小さなバクテリアは、肥料である窒素アンモニウムを食べて硝酸塩を吐き出します。また、他の多くの有害な窒素副産物を作っています。この小さなバクテリアは、かつては土壌の生物学的活動において小さく抑制された微生物活動でしたが、今ではモンスターに成長して肥料窒素のほぼ95~99%を消費して硝酸塩に分解します。
私たちは作物に肥料を与えているのでしょうか? それとも大きなモンスターに成長するのを助けた小さなバクテリアに肥料を与えているのでしょうか?
高いBNI能力を持つ野生の小麦の根系には、20~30倍の抗生物質を生産する能力があります。過去15年間で、これらの抗生物質の産生と栽培小麦への移行に関与するゲノム領域を突き止める取り組みに成功しました。私たちがBNI強化コムギと呼んでいるこの新しいカテゴリーの小麦は、根系から大量の抗生物質を生成して、「肥料食いバクテリア」の根系での硝酸塩生成を制御できる小麦となりました。
- Enlisting wild grass genes to combat nitrification in wheat farming: A nature-based solution(8/23, 2021 PNAS)
- TED Speaker/TED Attendee: Guntur V. Subbarao(Crop physiologist)
国際農研(JIRCAS)では、作物自身が根から物質を分泌し、硝化を抑制する現象「BNI: Biological Nitrification Inhibition」(下の図1)に着目し、BNI国際コンソーシアムを通じて、世界のBNI研究を主導しています。
- BNI強化コムギの温室効果ガス削減効果をLCAで評価(8/31, 2021 JIRCAS)
―硝化抑制率40%のBNI強化コムギの開発により、世界のコムギ生産由来の温室効果ガスを9.5%削減へ―