2025年第97回アカデミー賞授賞式が米ロサンゼルスのドルビー・シアターで開催され、長編ドキュメンタリー賞では映画「ノー・アザー・ランド 故郷は他にない(原題:No Other Land)」が受賞しました。同賞にノミネートされていた伊藤詩織さん初監督の「Black Box Diaries」は受賞を逃しています。山崎エマ監督による日米などの合作「Instruments of a Beating Heart」が短編ドキュメンタリー賞に、西尾大介監督の「あめだま」が短編アニメーション賞にノミネートされていましたが、いずれも受賞はなりませんでした。
- 2025年第97回アカデミー賞(Google検索)
- 映画「ノー・アザー・ランド 故郷は他にない」(公式サイト)

イスラエル軍による破壊行為と占領が今まさに進行している、ヨルダン川西岸のパレスチナ人居住地区「マサーフェル・ヤッタ」を記録しています。この現状をカメラに収め世界に発信することで占領を終結させ故郷の村を守ろうとするパレスチナ人青年バーセル・アドラと、彼に協力しようとやってきたイスラエル人青年ユヴァル・アブラハムの2人による決死の活動を、2023年10月までの4年間に渡り記録したドキュメンタリー映画です。
監督は、彼ら自身を含むパレスチナ人2人・イスラエル人2人による若き映像作家兼活動家たち4人が共同で務めています。「イスラエル人とパレスチナ人が、抑圧する側とされる側ではなく、本当の平等の中で生きる道を問いかけたい」という彼らの強い意志のもと危険を顧みず製作されました。

マサーフェル・ヤッタの住民たちが家や小学校、ライフラインを目の前で破壊され強制的に追放されていく、あまりに不条理な占領行為をあぶりだしていきます。これは、<世界で最も解決が難しい紛争>とよばれるパレスチナ問題が過去最大の危機を迎えている現在こそ、決して目をそらしてはならない、知らないふりはできない現実です。
2月に開催されたベルリン国際映画祭では、数多ある部門のプレミア上映のうち最も大きな盛り上がりを見せた1作となり、上映後には観客たちによるパレスチナ解放スローガンの大合唱と、割れんばかりの拍手喝采が巻き起こっています。最優秀ドキュメンタリー賞&観客賞をW受賞しています。多数の大手メディアで意見対立が勃発。監督らが殺害予告や脅迫を受け、身の危険にさらされるほど論争は今なお激化しています。
- No Other Land(IMDb) Ratings: 8.3
パレスチナ人のアドラー監督は受賞後のスピーチで、作品について「私たちが何十年も耐え、抵抗を続けている厳しい現実を映し出している」とし、「不正やパレスチナ人の民族浄化を止めるために真剣な行動を世界に呼びかけている」と訴えました。
- オスカー受賞「ノー・アザー・ランド」、監督らが中東紛争終結訴え(3/3 ロイター)
日本人監督として初めて米アカデミー長編ドキュメンタリー賞にノミネートされた「Black Box Diaries」、そして、日本人監督が撮った日本題材作品が短編ドキュメンタリー賞に初めてノミネートされた「Instruments of a Beating Heart」は、日本の未来を切り拓く素晴らしい作品です。