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トキソプラズマ原虫に感染したオオカミは群れのリーダーへ

米国ワイオミング州のイエローストーン国立公園に生息するハイイロオオカミ(Canis lupus)は、ネコ科動物を終宿主とするトキソプラズマ原虫(T. gondii)に感染すると、群れのリーダーになる確率が、未感染個体の46倍以上に達することが研究で明らかになりました。研究論文が、Communications Biology(nature)に発表されています。

タイリクオオカミ Canis lupus / Wikipedia

Connor Meyer、Kira Cassidy(論文の著者)たちは、26年間(1995~2020年)にわたりイエローストーン国立公園に生息するハイイロオオカミを調査し、リスクを負う行動とトキソプラズマ原虫の感染との関連を調べました。また、この国立公園に生息するピューマ(cougar)がトキソプラズマ原虫の宿主であることが知られているため、生息分布の空間モデルを使用し、ピューマ(62頭)から採取した血液サンプルのスクリーニング検査も実施しました。

その結果、ハイイロオオカミの生息地が、ピューマの生息密度の高い地域と重複している場合には、ピューマの近くに生息していないオオカミの場合よりもトキソプラズマ原虫に感染する確率が高いことが判明しました。感染陽性のオスのオオカミが分散(群れを離れる)する可能性が最も高く、次に陰性のオス、陽性のメス、陰性のメスの順であることがわかりました (感染陽性:赤色/下図参照)

トキソプラズマ原虫の感染検査で陽性反応を示したハイイロオオカミは、未感染個体と比べて群れから分散する確率が11倍高く、群れのリーダーになる確率が46倍以上高くなりました。進化の過程で生き残るという点では、トキソプラズマ原虫は猫やその獲物に最適化されているのですが、他の動物が巻き込まれた場合も似たような行動の変化が起きるようです。

人間も影響を受ける場合があり、ビジネス上のリスクを冒す行動や運転中の逆上、統合失調症などの行動変容とトキソプラズマ原虫との関係が指摘されています。

Fig. 5: Visual depiction of predicted probabilities of wolf serostatus and behavior. / nature

トキソプラズマ原虫に感染した群れのリーダーが、ピューマの生息地と重複する高リスク地域に群れを誘導する可能性があるため、トキソプラズマ原虫感染が、イエローストーン国立公園のハイイロオオカミの個体群に幅広い影響を及ぼす可能性があるという考えを示しています。このことは、未感染のハイイロオオカミの感染リスクを高め、さらなる危険な行動を引き起こすフィードバックループを形成する可能性があるということです。(感染:赤色/下図参照)

Fig. 6: Hypothesized wolf-cougar-T. gondii feedback loop. / nature

イエローストーン・オオカミ・プロジェクト(Yellowstone Wolf Project)は、1995年にオオカミが初めて公園に再導入されて以来、25年以上にわたって大型肉食動物を対象とした世界で最も詳細な研究の一つです。年間を通した野外調査により、生物学者は個体数動態、捕食者と被食者の相互作用、社会行動、遺伝学、病気、複数の肉食動物の競争、生態系への影響、人間とオオカミの関係などの幅広いテーマについてデータを得ることができます。これらの研究は、在来種と生態学的プロセスを理解し保護するという公園の使命に貢献し、世界中のオオカミ保護活動に情報を提供しています。

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