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世論: 見てから定義しないで定義してから見る(Walter Lippmann)

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米国ジャーナリスト、ウォルター・リップマン(Walter Lippmann、1889年9月 – 1974年12月)が執筆した世論(Public Opinion)では、人はイメージをつくる際に、「見てから定義しないで定義してから見る」というように、ある種の固定観念(先入観)をもつことによってイメージが左右されると説き、それを「ステレオタイプ」と名付けています。リップマンは20世紀における「最も影響力のあったジャーナリスト」「現代ジャーナリズムの父」と評されています。

女性とイタリア人のステレオタイプの例 / Wikipedia

1922年(大正11年)に出版された「世論」は「疑似環境」や「ステレオタイプ」の概念を提唱したことで著名です。人間は現実環境、擬似環境、行動の三角形の中で活動しており、この三角関係を方向付ける固定観念が存在し、これをステレオタイプと呼んでいます。ステレオタイプは複雑な現実環境から擬似環境を形成する時に、事実を恣意的に選別することになります。特にマスメディアが生み出す資本主義的なステレオタイプの問題に目を向けています。

普遍的なジャーナリズムやジャーナリストの役割や重要性を説いていますが、現代においては SNSによる大量情報が次々と情報圧縮され、フェイクやステレオタイプとして生産され、それらがタイムラインで拡散していく、その仕掛け自体がより深刻な問題となっているように思います。

リップマンが「世論」を書いた動機は、第1次大戦後の混乱の原因究明にあったのですが、大衆心理がいかに形成されるかを出発点として、人間と環境の基本的な関係を明晰に解いているので、いま読んでも、現在を分析して警告を発しているかのような切迫感があります。

リップマンの仕事は「ニュースが一つの事件の存在を合図するに過ぎぬ」という認識から始まります。隠されている諸事実に光をあて相互に関連付け、人々がそれに基づいて行動できるよう現実の姿を描き出すこと。この過程においてニュースの機能と真実の機能が合致するとしました。この彼の考えは生涯を通じてジャーナリズム活動の揺るがぬ基準になっています。

1974年に85歳で亡くなりますが、1958年と1962年の2回、ピュリッツァー賞を受賞しています。1958年、リップマンの「Today and Tomorrow(コラム)」で、スプートニク1号のソビエト勝利とリトルロックの人種差別騒動など、米国社会に関する挑発的な思索に対してピュリッツァー賞選考委員会は、著名なコラムニストには珍しいピューリッツァー賞特別賞を授与しました。

Lippmann, about 1920 / Wikipedia

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