映画「サンダカン八番娼館 望郷」は、1974(昭和49)年公開、熊井啓監督の名作映画です。原作はノンフィクション作家・山崎朋子の「サンダカン八番娼館-底辺女性史序章」(初版1972年)で、第4回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞しています。戦後、「戦前期日本の恥部」として一般に知られることが少なかった「からゆきさん」の実像を描き出し、原作・映画とも、さまざまな問題を投げかけた話題作でした。北川サキ(晩年)を演じた田中絹代さんは第25回ベルリン国際映画祭銀熊賞(女優賞)を受賞しています。
- サンダカン八番娼館 望郷(IMDb) Ratings: 7.5
第二次世界大戦後は、熊本県の天草で貧しい暮らしをおくる元「からゆきさん」の姿と、その回想のなかで語られる過去のボルネオの娼館での暮らし、そして、現在のボルネオに残る「からゆきさん」の墓を訪ねるくだりなどが、映画においても原作に忠実に描かれています。
サンダカン(Sandakan)はマレーシア・サバ州にあり、州都コタキナバルに次ぐ第二の商業都市です。第二次世界大戦中は、日本軍の占領下にありましたが、連合国軍の激しい空襲を受け、歴史的建造物などはほとんど破壊されています。また、ここには空港建設に使役させていたオーストラリア・イギリス兵捕虜を収容したサンダカン捕虜収容所があり、「サンダカン死の行進」が起きています。
- サンダカン死の行進(Wikipedia)
日本の女性の近代史を研究している三谷圭子(栗原小巻)は、旅行中の天草で偶然、おサキさん(高橋洋子/田中絹代)という老婆と知り合います。貧しい暮らしをおくる彼女が、ボルネオに出稼ぎしていた元「からゆきさん」であることを知った三谷は、おサキさんの家に泊めてもらい、その半生を聞き、書き取ります。
三谷との別れの時に「お金より三谷が使っていた手拭がほしい」と言う場面では、幾多の蔑み(さげすみ)と別れを経験したおサキさんの心情が溢れてきます。
サンダカン日本墓地は、1890(明治23)年に熊本県天草郡二江村出身の女将・木下クニ(1854年7月7日生まれ)によって開設されました。墓の大部分は「からゆきさん」のもので、当時は女衒(ぜげん)により女子の人身売買が横行、売春活動を強制される前に海外に売られた貧しい日本人の少女たちです。墓地に埋葬された人々(墓石)は日本の方角に背を向けており、自分たちを捨てた祖国や親族を非難する姿勢を示しています。
映画では、売春宿の女将(水の江瀧子)が死に際に「おまえたちも国に帰ったらロクなことがなかぞ、帰ったらいかん」と語ります。
- Sandakan Japanese Cemetery(en:Wikipedia) サンダカン日本墓地
- サンダカン日本人墓地を訪ねて(Go! Go! キョロちゃん !!!)
木下クニさんのお墓(No.125/No126) 綺麗に清掃され名前が読めます。
- Sandakan No.8 (1974)(archive.org)