161 メイデンレーン(161 Maiden Lane)(別名:One Seaport, 1 Seaport, or Seaport Residences)は、マンハッタンの金融街 Maiden Laneにある、高さ670フィート(204 m)で未完成の全面ガラス張り超高層住宅ビルです。Hill West Architectsが設計した建物はイースト川を見下ろしており、2018年9月に最上階(60階建て80戸)が完成しました。ただ、この超高層マンションは地盤と基礎工事の結果として北に8インチ(20cm)傾いています。The Impossible Buildによる解説動画と、“ニューヨークの斜塔”を巡るレポート(Wired.jp)があります。
- Seaport Residences NYC(Official website)
- マンハッタンの超高層高級タワーマンションはなぜ傾いたのか(3/20 Wired.jp)
- Seaport Residences Continues to Languish at 161 Maiden Lane in Financial District, Manhattan(11/27, 2024 New York YIMBY)

マンハッタンでは、高級住宅としての超高層ビルの多くがミッドタウンのビリオネアズ・ロウ(Billionaires’ Row)と呼ばれる地区に集中していて、ヘッジファンドマネジャー、外国人富豪、あるいはジェニファー・ロペスやスティングなどといった有名人がユニットを買っていると報道されています。
超高層ビルの建築にとって理想的な土地は、地下およそ15m、地表から比較的近い層に強固で平坦な岩盤がある場所です。ミッドタウンの場合は区画のほとんどでその深さに岩盤があります。しかし、メイデンレーン161番地は違っていました。17世紀にメイデンレーンを敷設したオランダ人らは、マンハッタンの輪郭を拡げる目的で「埋め立て」を行なっています。
- Land reclamation in Lower Manhattan(en:Wikipedia)ロウアー・マンハッタンの埋め立て

2013年にFortis Property Groupは、メイデンレーンの端に位置する小さな駐車場を6,400万ドル(約95億円)で購入します。地質評価コンサルタントを雇って地中を測量させ、さまざまな要素が入り交じった地盤であることが判ります。まず、約7mほどの植民地時代の埋め立て素材で、砂利、沈殿物、コンクリート、鋼鉄、レンガ、古い船やドックの破片などが敷き詰められ、その下にはかつて湿地だった土壌が広がります。その下には、数千年前に氷河が運んできた砂と分解された岩の層が見つかります。その下にメイデンレーン161番地の岩盤があり地下約47m付近でした。Fortisは、「1 Seaport」のビル建設をイタリアを拠点とする建設会社 Pizzarotti(ピッツァロッティ)に依頼します。
19世紀末から、金融街の超高層ビルでは 杭(パイル)基礎を用いてきました。岩盤の深さに届く杭を地中に打ち込む方法です。Fortis Property Groupは、この工法で複数の複雑に入り組んだ民事訴訟を起こされていたことから、地中に硬化材を注入して地盤を固めるジェットグラウト地盤改良を採用します。その結果、同社は600万ドル(約9億円)を節約できましたが、リスクが伴っていました。ロバート・アルパースタイン(Robert Alperstein)という建築コンサルタントが100ページ近くのレポートを作成し、この方法では「不等沈下」が生じる恐れがあると、Fortisに警告していました。つまり、「傾く恐れがある」ということです。また、近隣のビルのすべてが杭で岩盤に固定されているとも、同レポートは指摘しています。
- Jet-grout soil improvement(Google検索)

2018年4月17日、「構造に問題点があり、異常な沈下が生じています……ビルは北向きに3インチ(約8cm)傾いています」。さらに、2019年の冬に測量したところ、一部の階で本来あるべき位置よりも10インチ(約25cm)ほどずれていることが判明します。Pizzarottiは我慢の限界だとして訴訟を起こし、契約の解除を求めます。訴状において、Pizzarottiの弁護団は、Fortisが「1 Seaport」の基礎に関する重要な情報を隠していたと主張。また、同ビルは「いまも動いている」と指摘し、このまま放置すればどこまで傾くかわからないとも付け加えています。
「1 Seaport」に関連する訴訟は現在20件をゆうに超え、マンハッタンの民事裁判所で争いが続いています。構造エンジニアは過去数年ずっと、メイデンレーン161番地の構造物が倒壊する可能性は低いとの判定を下してきました。しかし、純売上高が3億ドル(約450億円)規模に達すると予想された「1 Seaport」というプロジェクトはすでに崩壊しているとしています。
- 傾いた58階建てマンション、7年の苦闘(3/23, 2023 日経BP)